目の前の隼人は、スーツのポケットから煙草とライターを取り出し、黙って火を点けた。
右利きのくせに、左手で煙草をくわえるのが隼人。
定期も切符も改札を通すときは、いつも左手だ。
ふぅーっと吐き出した煙が、螺旋を描くようにゆっくりと天井に上っていった。
「俺、思うんだけどさ。
やっぱり、こういうのって悲劇だよな。誰にとっても。
一人の男として、そういう中途半端なことは許せないし、俺自身はするつもりもない。
でも、相手の男を庇うつもりはないけど、なんとなく気持ちが分からなくもないんだ」
「……えっ?」
隼人の言葉を、噛み砕いて理解しようとした。
「勝手なこと言うようだけどさ。俺、今でも奈緒のこと、忘れたわけじゃないんだ。
でもさ、こうした裁判を引き受けるたびに俺の中で葛藤するんだよ。
罪のない人を悲しませるな、って。だから……」
隼人が言いたいことは――?
黙って、隼人の顔を見つめた。


