彼と彼女と彼の事情



「ねぇ。ところで、今日はどうしてここにきたの?仕事って……?」 


「あぁ。この近くに、今回の依頼者の仕事場があってさ。書類の確認でこちらから出向いたんだ。
その帰りに、ふと奈緒のことを思い出したから電話してみた」


トクン、と心臓が音を立てた。


「そっか。……ちなみに書類の確認って?」


「あぁ。今度の案件は、離婚調停だよ。子どもの親権を巡って争ってるところなんだ」


「そうなんだ。親権って、子供は何歳なの?」


「保育園に通う5歳の女の子。すげぇ可愛いんだよ、その子!いつもピンクの服を着て、頭には大きなリボンを付けてるんだ。少女漫画に出てきそうな感じの子。

でもさ、子どもには全く罪がないのに。いくら夫婦の事情だからって、親から引き離されるなんてホント可哀想な話だよ」


「……そうだね。ちなみに離婚の原因は?」



いつの間にか、隼人の仕事の話になっていた。