「やっぱり、君って馬鹿なの?」

 「はぁ?」

 無遠慮極まりない態度で私から受けとったハンバーガーを貪りながら、目の前の男は失礼な台詞を宣わった。

 「いやぁ、馬鹿としか言いようがないでしょう。わざわざトラブルと分かってて自分から巻き込まれに行こうだなんて。その、腐れ縁っていう彼からも言われたんだろう?」

 「…自分でトラブルって認めるんだ」

 「そりゃあ、そうだろう。華の女子大生が関わっていいような男ではないよ、僕は」

 男は、じょりじょりと伸ばした無精髭を撫でながら、片手に持つハンバーガーにかぶりつく。頭はボサボサ、少し長めの襟足を無造作に輪ゴムで括り、所々ペンキのついたシャツはどこからどう見てもホームレスだ。

 「私は、一応感謝してるし、尊敬だってしてるのよ」

 「感謝?尊敬?それは僕が感じるはずのものだよ。間違ったって、君のような普通の女性が僕のために感じていい情ではないね」

 「何よ…素直に嬉しいとは思わないわけ?」

 「どうして?僕は、あのままだったら野垂れ死にしていたであろうホームレス相手に、親切にも食べ物を分け与えてくれた感謝として君に手を貸しただけだよ?」

 ぐしゃりとハンバーガーの包み紙を握り潰し、近くにあったごみ箱に投げ捨てる。借りは返した、とでも言いたいのか。

 「じゃあ、トラブルでもいいわ。これはただ、アンタに被った迷惑料みたいな物だから」

 「もちろん。助けてもらったとは言え、僕が受けた迷惑は遥かに限度を越えていたからね。こちらもそのつもりでハンバーガーを受けとったんだし」

 あぁ言えばこう言う。本当に腹立たしいホームレスだ。
 でも、あれは確かにおおよそ食べ物なんかでお礼ができるような出来事ではなかった。
 今も尚、肌を刺す感覚がこびりついて離れない。あのとき、この男に出会っていなかったら、私はどうなっていたのか。いや、もしかしたらどうもなっていなかったのかもしれない。この男の言ったように、男と関わってしまったことで逆に状況を悪化してしまっただけかもしれない。

 「そうね。アンタがどういうつもりで私を助けたのか、どういうつもりでそのハンバーガーをうけとったのかなんてこの際どうでもいいもの。私でも何でアンタに会いにきたのかよく分かってないし。ただ、そうね。何となく、って言った方が、一番しっくりくるわ」

 「……」