「るっさい、こんなとこで盛る方が間違ってんのよ」

 言うと、彼は更にケラケラと笑い、私は何とも言えない羞恥に苛まれて思わず顔を赤くする。腰まである長い黒髪の鬘を彼に投げつけて、不機嫌な表情を隠すこともなく、着替え終えた衣装を館長のトランクに詰め込んだ。他の仕事仲間達も同様に、お互い愚痴を零しながら、舞台の片付けに走る。

 「まぁまぁ、そんなに怒るなよ。それより、これから打ち上げやるらしいけど、出るだろ?」

 「あぁ、私パス。館長によろしく言っといて」

 不思議そうに目を瞬かせる彼の言いたいことは手に取るように分かる。どちらかといえばノリのいい私が、誘いを断るとは思わなかったのだろう。
 肩にかかる程度の加工されていない茶の混じった地毛を撫で付けて、小さくため息を吐く。私だってできることなら久しぶりに羽目を外したかった。せっかくの華の学生生活が、バイトと授業で無惨にも散り散りになっていくというのは遺憾しがたい。

 「ふぅん。恋人でもできたか」

 「私がそんな俗物みたいなことをすると考えたんなら、アンタの人を見る目はその程度ね」

 「お前なぁ…」

 呆れたように苦笑を零す彼に、冗談よ、と短く吐き捨てる。先程の馬鹿なカップルのひがみだと思われるのも癪だ。
 そんな私の考えが読めたのか、彼は微妙な表情で私の荷物を渡してきた。

 「ま、深くは追及しないけどさ。お前、ときどきとんでもないトラブル持ってくるだろ。他人を巻き込まない内に、相談しろよ」

 「自分は巻き込まれたっていいんだ?」

 「腐れ縁のよしみだ。好きにしろ」

 やっぱり、彼のこういうところは気に入っている。心配性なくせに間合いを心得ている懐の広さも、全て受け止める覚悟を持つ強さも。
 私は彼から引ったくるように荷物を奪い、に、と笑ってみせる。

 「それじゃ、何かあったら甘えることにするわ。ありがと、榊」

 「どういたしまして、夏目」