「ねぇ君、名前は?」 「…え?」 そんなことを考えていたから、つい彼からの質問を無視するようになってしまった。 私の目の前に移動し、ピアノに寄りかかるように立つ彼は、クスクスとまた面白くもないくせに笑った。 「名前。教えて?」 あぁ、この人、女の人に慣れてる。 直感的にそう思ったから、教えたくない。 でも、『きれいな声だね』なんて例え社交辞令だとしても誉めてもらったのに、名前を教えることすら断るのは、さすがに気が引けた。