あの栞は、ただの栞じゃない。

四つ葉のクローバーを七のつく日に自分で見つけて、押し花にして、それを白い短冊がたの厚紙に貼って、栞を作り、裏に自分の名前を書く。
その栞を使いながら百冊の本を読み終えれば、幸福になれる。


高校一年の時に立ち読みした雑誌に書いてあった、おまじないだ。
そのおまじないのために、一か月くらいの間は、河川敷のあたりを七がつく日にはうろうろしたし、あんまり本を読む習慣もないのに、読書を始めた。

高校三年の一学期でようやく、八十九冊目になったのに……。
八十九冊目の本に挟んだまま
あー、本当に私はなにをやっても、ダメ。本当に、クズでバカで、脳みそが足りない。

……母の言うとおりだ。


このまま、あの栞が見つからなければ、おまじないは失敗に終わる。
つまり、私はいつまでも……。

落ち込みながら、帰り道をのろのろと歩いていたらケータイが鳴った。
ポケットから、取り出し、表示を見る。


『母:自宅』


急いで、ボタンを押し、耳元に持っていく。
早くしないと、早くしないと……。



「はゆみ! いつまで図書館にいる気なの? 家に帰りたくないなら、帰ってこなくてもいいんだからね!」


大きな金切り声に近い不快な音が耳に流れ込む。


「あ、ううん、違うの。ごめんなさい。もう、帰り道だから……」