「凛子。おーい、りんご、起きろ」




瞼をこじ開けたと同時に刺すような強い光が私の目を貫いて、ズキンと痛む。


あぁ、目が乾いて痛い。
何度か瞬きを繰り返してやっと広がった視界が写したのは、艶々と輝く長い黒髪。あれ?




「小夜子」

「あ、あんたレポート書いてないじゃん。先生もう行っちゃったけど。」

「レポート…?」





まだ頭の中が整理できなくて、ふと握った手元でくしゃりと紙の潰れる音がする。

見ればさっぱり理解できない化学式と、組み立てられたフラスコやビーカー、アルコールランプの図。



黒い机、白衣を着た友達、薬品と火薬の臭い、科学室。




「科学、の授業?」

「あんたが爆睡してる間に終わったけどね。実験結果教えてあげるから、適当にレポート書いて出しちゃえば?」




ガタガタする、背もたれの無い椅子を机上に上げながら彼女―――中西小夜子は溜め息をつく。





「起こしたのに起きないし。随分幸せそうだったけど、何の夢見てたの?」

「うーん、説明しづらいんだけど…」





あの音は近くに置いてあった、ヒメダカの入った水槽か、沸騰石を入れたビーカーだったのだろう。

それで、

それで、小夜子の声を聞き間違えたんだ。“あいつ”と。





「金魚になる夢、かな」





なぁに、それ、と小夜子が笑った。