「可愛いだけじゃ指名は取れないよ。たっぷりサービスしないとね」
ボックス席で客にべったりとくっついて座られて、腰に手を回して引き寄せさられる。
「きゃっ!嫌っ」
驚いてつい大声をあげてしまった私に客は不機嫌になった。
「失礼な女だな。おい、ボーイ!違う子に変えてくれ!」
客は黒服に文句をさんざん言って、他の女の子を呼んだ。

「席で悲鳴を上げるなんてよっぽどのことだと思うだろ?
高い時給もらってるんだから、多少のことは我慢してもらわないと仕事になららないよ!」
キャッシャー前で黒服に厳しく注意される。
「はい、すみません・・・」
「仕事できない、指名も場内も取れないままじゃ、罰金で給料なくなるよ?ったく…」
言うだけ言うと、黒服はホールに戻り、私も待機席に座った。玲実〈レミ〉が話しかけてくる。
「あんた真面目なんだね。今どき珍しいよ。キャバ嬢なんて楽な仕事なのに」
「楽!?」
「ギャル上がりだからね、アタシは。男なんてちょろいもんだよ」
仕事をあまり苦にしていないような玲実に私はびっくりして、ため息をつきながら言う。
「あたしには向いてないのかな…」
自分とは無縁の世界だと思っていたこの商売を本当は軽蔑すらしていた。
「キャバなんて誰にでもできると思ってたけど、そうじゃない子もいるなんて、こっちが驚きだよ」
玲実は私に興味を持ったようで、それ以来何かと声を掛けてくるようになった。