陽炎学園異文録

「だ、だめ……でしょうか?」

明人は軽く、舌打ちしたい気持ちになった。
いくら何年も離れていたとはいえ、たかが妹に言い負けそうになる自分が明人は嫌だった。

「ああ……もう、わかったよ」

「ですって、良かったですね父さま」

「………もしもし?よーしーの?」

いきなり、父親の方を向いて彼女は言った。
明人は追い付かない頭で佳乃を見る。
佳乃は可愛らしく、しかしどこか毒を含んだような笑みを浮かべながら明人に抱きつく。

「昔から、この手には弱いんですね…兄さま」

「佳乃、お前性格悪くなったな。アレ嫌っていた癖に組むなんて」

「今さっきのは本心です、兄さま」

明人はそれを聞き流しながら、ため息をついた。
妹にほだされて、実家に戻るだなんてと明人は思いながら、しばらく親戚に口を出されながら父親と殺伐とした会話をしていた。
殺伐としていたのは、明人と親戚だけだったが。