「明人ちゃん、積み残しはないかい?」

「大丈夫だよ婆ちゃん、爺ちゃん」

心配そうな老夫婦を宥めるように青年は二人に笑いかけて、お辞儀をした。

「それから、今まで九年間ありがとう」

老夫婦の目に涙が光る。そのまま明人は振り向いて家の近くに来た友人たちに駆け寄る。

「よぅ、アキ…達者でな」

「都会にいって田舎だからって苛められたら承知しないわよ!」

「まっ、明人なら大丈夫だよな」

「頭いいですからね~」

「どこにいっても友達やめねぇからな!」

全員に頭を撫でられる。
もみくちゃにされながら明人は少し、涙が出そうになった。
それを堪えて、「手紙、書くからな」と友人にむかって言った。
全員が嬉しそうに笑う。
それから、明人はこの田舎での九年間を思い出す。
輝くような忘れ難い日々だった。



今日から赤星明人は、勘当された漆屋敷家に帰ることになる。九年間育った家から連れ戻されて、九年前まで住んでいた家に行くことに彼はなっていた。