「樹里、補聴器は?」
「付けたよー。」
そう言って樹里は僕に“それ”を見せてくる。
「よし、じゃあ行くぞ!」
まだ雪の残る住宅街を抜けて
歩き出す。
樹里(じゅり)はいわば僕のお隣さん。
簡単に言えば
幼馴染みってやつで。
こうして毎朝学校に行くのも
彼女を起こすのも
もう、ごく当たり前の事なのだ。
「樹里、よそ見すんな。」
「わかってるよー。」
だけど彼女は少しだけ
ほんの少し
他人とは違う。
「なぁたん。」
「ん?」
「今日もいい、お天気、だねー。」
朝日に溶ける彼女の笑顔が
とても幸せそうで。
「樹里、危ないからゆっくり歩けよ!」
「やだー。遅刻、する、でしょー?」