結局、ふたりはどこにも行かないまま、帰宅することになった。
先生は歩を車に乗せてバイト先まで送り届ける。
車の中はさっきの赤裸々告白で無言。
FM放送の音楽番組が車内で流れていて、何とかこの沈黙を繋ぎ止めている。
バイト先に到着し、車を路肩に停車させる。
歩は鞄を持ち、
「今日はありがとう。じゃあまた」
と挨拶をして車を出ようとした。
すると腕を掴まれ、引っ張られる。
歩の身体は先生の胸に引き寄せられる。
ミッションの車ならギアがあるが、最近の車はオートマチックが主流なので、運転席と助手席の間が空いている。
「無理しないんだよ。歩は無理しすぎるとこあるから。辛い夢見たとか、そういう些細なことでもいいから、俺にちゃんと伝えてね?」
歩は先生の胸に顔を埋めながら『うん』と答えた。