「寒い」
学校からの帰り道、どこからともなく吹いた冷たい風に身体を震わすと、隣を歩く男が私の首に巻かれていた黒いマフラーを奪った。
首回りが外気に触れたせいで、身体が余計に冷えていく。
どうにか防ごうと、首を縮こませたら男は笑った。
「寒いんだけど」
手を伸ばせばマフラーに届くのだけれど、寒くて無理だ。
威嚇するように男を見上げると、男の首にあった黒いネックウォーマーが消えていた。
気づいたと同時に視界が閉ざされ、そしてすぐに開けた。
「こっちのが暖かいべ?」
そう無邪気に笑う男は、ネックウォーマーの代わりに私の黒いマフラーを巻いていた。
実際のところ、暖かさに違いはなかったけど、身体が火照ったのは彼の温もりが残っていたから。
『3℃上昇』
(あなたはわたしにとっての人間カイロ)
