「悠の知り合いの子でな。是非、お前を撮りたいと言ってきた。」
「悠の?」
悠も同じ事務所に所属している。
(今日、笑っていたのはこの事か?)
「もちろん、一度は断った。無名のガキに涼弥の写真集なんて…いいモノができるとは、考えられなかったからな。」
「では、どうして許可を?」
「…断ってから数日後、写真が届いた。悠をモデルに撮ったものだった。これだ…。」
“パサッ”
社長が写真を涼弥の前に、無造作に出した。
「これが…悠?」
そこには、知的でかっこいい悠ではなく、無邪気に笑った少年がいた。
まるで、子どものようで、悠のイメージとは、全く違う写真だった。
でも、全く悠の株を落とすことはなく、逆に新しい悠の魅力を引き出していた。
「まさか…悠のこんな顔をするとは…」
(確かに。悠は、いつも知的な大人の雰囲気を出していた。ドラマでも、テレビでも、俺の前でさえ…。それが、世間が自分に求めているイメージだと、分かっていたから。その悠が…)
初めて見る悠の顔。
まるで、別人の写真を見ているように、涼弥は思えた。
「そろそろお前の写真集を出そうと考えていたし、コイツにかけてみようと思う。」
そう言いながら社長は、写真を“トントン”とたたいた。
「…分かりました。」
涼弥自身も興味がわいった。
(この写真に写っている悠が、もし本当の悠だったら…。涼を隠している自分は、どんな風に写るのだろう…)
そう思うと、気になって仕方なかったのだ。
「撮影は、2ヵ月後から始める。約1年間をかけて、春夏秋冬のお前を撮る予定だ。これは、涼弥がさらに上がれるかどうかを決める、大事な作品だ。気合いを入れて取り組め。」
「はい。」
「カメラマンの情報は、ここにまとめてある。帰って読め。以上だ。」
「分かりました。」
涼弥は、その資料を持って社長室をあとにした。
