そして輝く様な笑顔を見せながら
「良がべ(いいよ)!」
と応えた。
「ありがと。」
 憲治も笑った。「翳り」を見たことは忘れることにした。

 「少女」は体育館のアルミドアを背にして立つと小さく手を振った。憲治も手を振った。体育館の空気に紛れ行く「少女」。
 遠い夕暮れ。女の子と一緒に帰ったあの日の記憶、あの日の切なさが胸に迫ったまま、憲治は校舎の横に止めたオフロードバイクにまたがる。取返しの利かない時間の遠さに気づいて、今一度、切なさが胸の奥から込み上げる。