スピリット・オヴ・サマー

「『憧子』が言ってた。もう、忘れ物はないか、だとさ。」
「えっ?どうして、『憧子』って、どうして先輩がその子の名前、知ってるんですか?」
 くりくりした瞳を、更に丸くして問いかける聖菜。ため息を一つ吐(つ)き、微笑みながら憲治は言った。
「俺もよ、夢、もう一度見つけてみようかなってさ、思ったよ。だから、聖菜の夢も応援したくなった。書いてくれ、『憧子』の小説。」
 聖菜の表情に驚愕の色が浮かび、だが、それは瞬く間に大粒の涙で洗い流されていった。
「…それじゃあ…、私、昨日、先輩と…、夢なんかじゃ、なかったんですね…。」