少し長いくちづけの後、憧子は幼い声で、精一杯の官能をこぼし、憲治の吐息を耳元に受けた。憲治は憧子の白いうなじや、愛らしい耳たぶに唇を寄せながら、静かにつぶやいた。
「…さよなら、夏の精霊…。」
 憧子も、憲治の耳元でささやく。
「…もう、忘れ物、ねぇな…。」
 夏の夜風にあおられて、羽虫たちが街灯から遠ざかる。
 街灯の光が、瞬く。

第3節に続く