憲治の頭の中では、昨日の火事で消滅したはずの、だった。だが風の先を、目で追いかけることは身体に染みついた習慣となりつつあった。すると。
 いたのである。「憧子」である。「憧子」はそこにいた。
 憧子は憲治の目の前にふわりと立った。そして、静かに微笑んだ。憲治の魂が凍りつく。驚きは喜びでもあった。しかし、憧子の微笑みの「影」を見た刹那、戦慄が紛れ込み、憲治の言葉さえも凍てつかせた。
「憧子、お前…。」
 やっとのことで声をかける憲治。
「昨日の火事でどっかに逝っちまったとばっかり…、」