「もしかしたら、8年間、この校舎に置き去りにしてきた忘れ物を取り返そうとしているのかも知れない。だから、その忘れ物がもう一度自分のものとして、馴染んで、そばにあることすら気づかなくなるまでは、中学のままでいたかったし、今もそうしたい。それだけなのかもしれません。」
「さすが文学少女だな。」
 憲治は余裕を見せる。聖菜はふふふ、と笑って大きな瞳を細めた。
「そう、私、この学校で見た『憧子』って名前の女の子のこと、小説にしようかなって、そう思ったんです。」