暮色。淡朱は時とともに紫紺の影を滲ませ始めていた。
 目覚めたのか、それともまだ精神の淵にさまよっているのか。憲治は、頬の辺りに温もりを感じて目を開けた。廊下の床に使うワックスの匂いがする。まだ学校の中にいる。
 精神はやがて水から揚がるときのように、大気の重力になじみ、視界は光を捕らえる。
 最初に見えたのは夜の海原。波の間から安らぎを誘う声がする、濃紺の体温。が、そこに手を伸ばそうとした瞬間に、それが海でも波でもなく、フレアスカートの表面であることに気がついた。