憧子は「死んだ」。だから憲治自身の中に「風」が見えるチカラが残っているはずはない。だが、昼間見えたのは間違いなく聖菜の「風」だった。このチカラは残るものなのだろうか?それに、今、聖菜が「見ていた」のは一体。
 二つの疑問を残しながら憲治はプールを閉め、小さな店に向かった。

 憲治が店の前に立つと、奥まった方から聖菜が顔を出した。
「お待たせ。仕事の方はいいの?」
「ええ、大丈夫です。得意先回ってきますって、言って来ちゃいました。こんなご時世ですから仕事の量自体少なくて。最近は休憩時間に外出しても、何も言われないですよ。」