よもやと思い風の行く先を目で追う憲治。憧子の姿を探す。だがそれはどこにもなかった。
 その風は聖菜のいる方に向かい、その目の前を掠めていった。聖菜は立ち上がった。そしてその風の行く先を眼で追い回す。さっき憲治がしたのと同じように。
 聖菜が見せたその仕種は、まるでその風そのものに何者かの姿を見るようなそぶりだった。憲治はそのそぶりに、自分と同じ「何か」を聖菜も見ていたのではないか、と思い始めた。それと同時に、憲治の心中に微かだが新たな疑いが生まれた。