午後3時、プール終了の笛を鳴らしながら憲治はそっと外を見やる。金網越しに見える、あの例の小さな店の軒先、ひさしの日陰の下で、ベンチ代わりの丸いスチール椅子に腰掛けてこちらを見ているのは聖菜だ。
 昼、憲治は涙に濡れた聖菜の頬を指で拭きながら、バイトが終わったら例の小さな店のベンチで会う約束をしていたのだった。
 憲治の視線に気づいた聖菜は、軽く会釈をした。憲治はそれに応えて軽く手を上げた。その時であった。
 ごおっ。
 不意に背後から強い風が吹いた。