しかし、同時に限りなく深い安らぎが巡ってきた。待っていたのだ。聖菜の、この言葉を。
 憲治は聖菜の前でひざを落とした。
 蕎麦屋の前からは歩き初めてかなり離れていたが、一人、二人と通る人々の視線を気にしながらも憲治は聖菜の前にひざまづいたまま、動くことができなかった。
 聖菜の仕種のせいだろうか、憲治には目の前の聖菜が、少女の頃の「聖菜」に思えてならない。憲治は聖菜の顔を覗き込み、聖菜の両腕をそっと掴むと、子供をなだめるように言った。
「ごめんな。俺、悪い先輩だった。聖菜がこんなに惟ってくれてたのに、な。ごめんよ。」