スピリット・オヴ・サマー

 憲治にとっては苦痛でしかない数十分だった。
 やがて、勘定を終え、二人は店を出た。憲治は、「先輩として」当然のように二人分の勘定を払った。レジの叔母さんが、不思議そうな顔をした。恋人同士にしては、何も話をしない。妙なカップルだと思ったのだろう。
「…っ。」
 暖簾をかき分けた瞬間、真夏の太陽の下、店内とは打って変わった熱気とまばゆさに、憲治は軽く呻いた。
「私、」
 聖菜が切り出した。ん、と言って憲治が振り向く。
「作家になりたいんです。」
「…え、っ?」