「影」は見えないが、何かを待っているのが分かった。憲治の精神(ココロ)が重い腰を上げる。
「聖菜、」
 やっとの思いで憲治が切り出す。だが、その後に繋げる予定の言葉は、憲治にとっていささか勇気が要り用だった。
「聖菜のこと、聞かせてくれよ。」
 すると聖菜は、瞳を輝かせて微笑んだ。そして、遠慮がちな嬉しさを唇の先で愛おしむように話し始めた。
 この辺りにある建設関係の事務所に務めていること、最近車の免許をとったこと、等々。