何かこちらから切り出すべきなのだろうが、どう言ったものか妥当な台詞を組み立てるために、言葉の引き出しを手当たり次第に開け放っていく憲治。しかし何も見つからない。見つからぬまま聖菜の問いに応えていくだけの会話が、憲治には幾分面倒にも思えてきた。そう思っている自分にもまた嫌悪感を覚える。
 穏やかな空間の中で、自分だけが密やかに取り乱していくのが分かる。
 聖菜の言葉が、少し淀んだ。沈黙が続く。聖菜の表情を覗き込む憲治。聖菜は水の入ったグラスを見つめながら、ずっと俯いている。