8月の陽光の中で、聖菜の背中が嬉しげに弾む。
 憲治は心の中で舌打ちした。
 まるで道化者(ピエロ)、だ。
 憲治の微笑みは、聖菜を安心させるため、と言うよりは、己の下らなさに呆れ返っている、その、己自身に対する憐れみでしかなかった。
 卑屈な惨めさが、アスファルトの上に影を垂れ流していた。生きようと思わせてくれた憧子には申し訳なかったが、今憲治が見ている己の影の濃さは、軽薄な生き方が長かった憲治にしてみれば、生きていく意味の重さを背負わされていることに他ならなかった。
 陽光が、重い。

第3節に続く