思わず憲治は足を止めた。
 どうしようもなく心が寒い。命がさらさらと音を立てて「風」の中にさらわれていく気分。誰か自分の名前を呼んでくれないものか。背後から呼び止めるのではなく、行く先で招く声が恋しい。誰でもいい、どこでもいい。連れていってくれ。
 そんなことを思いながら、来客用兼職員用玄関を出た。
 校門を抜け、北中前の広域農道に出た。その時、である。
「…センパイ…、」
「!」
 憲治はその声に軽く痙攣した。記憶の片隅から、何か、引っかかるようにして引き摺り出される「それ」が、憲治の精神を、瞬間ではあるが炎天下で凍えさせた。