誰もいない校舎一階の中央廊下を抜けていく憲治。
 真上から射貫く正午の陽光は、廊下の中までは入り込めず、日暮れ時とは逆に中央廊下は幾分薄暗い。山路で突如として現れる、落石防御のシェイドの中をくぐるような感覚だった。窓から眺める風景がやたらと明るいだけに、廊下の薄暗さは際立っていた。そのギャップが憲治の孤独感を更に強めていく。
 ざあっ。
 薄暗い中央廊下を「風」が吹き抜ける。
「…っ!」
 その「風」は憲治の身体の中を貫いていった。何という感覚。自分の身体の、細胞と細胞、いや、原子と原子の隙間を「風」が擦り抜けていく。