死界からの使者であろう憧子の胸の柔らかさと温もりを思い出しては見るが、覚めた夢の重さは、軽々しく覆い被さる現実の影に残り香を漂わすばかりで、何一つ確かな形を残しはしなかった。起き抜けの心だけが、微かに軋む。
「さて、と…、」
 憲治は腰を上げた。
 思い出では満たされない胃袋に苛立ちながら、彼は憧子と並んでコーラを飲んだあの店に向かう。胸焼けしそうな油臭いカレーパンをコーラで流し込めば、何時も通りの短い昼食の終了だ。

第2節に続く