「事実」と言うには儚(はかな)すぎる。「幻」と言うには鮮やかすぎる。良く晴れた日の遅い午後に見た夢。
「…憧子、か…。」
 憲治はつぶやいた。そのつぶやきは、水面にはしゃぐ子供達の歓声の中に紛れ、消えて行く。
 憲治はふと腰を上げ、監視用のテントの外に出た。途端に真上から降り注ぐ陽光。うっ、とうめいて眼を細めながら、プールサイドの南端へゆらゆらと足を運ぶ。焼けたコンクリートが、痛い。
 憲治はフェンスにしがみついた。
 己の生まれ育った景色を、今一度目に焼き付ける。