『…憲治、さん…、』
 「風」が吹く。体育館の方から、「風」が吹いた。その「風」に呼ばれた気がして、憲治は不意に「風」の吹き抜けた方向に目をやる。
 何も、なかった。
 再び、燃え盛る体育館に目を移す。火勢はいくぶん弱まっていた。
「…憲治さん…、か…。」
 憲治は肩を落とし、うなだれ、膝を付き、へたり込んで長く息を吐いた。
 憧子の流れる様な黒髪。
 憧子の白く透き通った肌。
 憧子の輝く瞳。
 憧子の桜色の唇。
 憧子の笑顔、涙、吐息。
 そして憧子の体温。