やがて、憲治の向かう彼方の空が、ほのかに赤くなっているのが見えた。
「憧子…、」
 憲治は国道を下り、脇の小路に入る。その先は農道になっていて、北中の前まで直線で行ける。
 見えた。北中のシルエットが、赤く焼けた空に浮かび上がる。炎の中でうずくまる憧子のイメージ。
「憧子、死ぬなよ…。」
 死ぬも生きるもないことぐらい分かっていたのだが、口に出さないと焦りも不安も治まり様がなかった。