夜。
 憲治のバイクが国道を行く。
 夕飯の後、電話が鳴った瞬間、憲治は嫌な感じがした。昼間の、憧子の言葉、涙。胸騒ぎ。焦り。不安。突然沸き上がるイメージが、憲治の頭の中で迷走する。
『北中の体育館が焼けている』。
 電話に出た父の言葉に、憲治はヘルメットをつかんでいた。
「憧子、憧子…。」
 日曜の夜の、車の少ない国道。憲治はヘルメットの中でつぶやく。繰り返し。いくつか信号無視をしたが、そんなことはお構いなしだった。とにかく、北中まで行かなくてはならない。国道を走った。