でも、憲治の心中で、それは微妙に違っていた。寂しくて、欲しがっていただけのあの時とは違っていた。だから、今は涙は流れなかった。ため息と、微笑みが心の中から零れていた。
 憲治は憧子の髪の中に顔を埋めた。そしてつぶやいた。
「ありがとう、憧子…。」
 憲治は憧子を、いつまでも抱きしめていた。この夢が覚めてしまうことが分かっていたからこそ。そして、初めて、自分の弱さを晒すことの出来た美しい存在が、同じように自分を慕ってくれたことへの感謝をも込めて、だった。
 太陽は、まだ高く輝いていた。北中の夏休みは、もうすぐ終わる。

第4節に続く