「都市」と呼ぶのもおこがましいこの地の、全平地面積の8割以上を占める稲作農地は、この季節には碧々とした稲穂を実らせ、その一つ一つが水の粒子のごとく揺れる都度、田は大海となって渡る風に波打ち、稲穂の葉は白い腹を見せて波頭を形作る。
 その稲穂の大海の只中に、ぽつり、と浮島のように存在するのが、「市立北中学校」。憲治の母校だ。
 今の彼は、その校舎の脇のプールサイドで監視のバイトをしている。