スピリット・オヴ・サマー

「気になんかしてねェ。」
 それから憧子は、わざと明るく答えた。
「おらぁ、この恰好、本当に気に入ってる。これから当分は、他の人さ逢う時も『憧子』で通すつもりだァ。それに、時間が経てばたいていの力は戻るなしゃ。あんだの生命力と同じだ。心配しねでけれ。」
 笑いかける憧子。だが、その瞳の奥の「風」が微妙にゆらぐ様を、憲治は見てしまった。
「そう、か。ならいいんだ。」
 あまり心配するのも、逆にかわいそうだ。憲治はそう思って、そのことについてはそれ以上問わなかった。
「じゃ、会えなかったのは?」
「そりゃあ簡単だァ。千佳子と会ってだものなァ。」