ただ、会わなければならない気がしてならなかった。例えそれが単なる思い込みであったとしても。

「こんにちわー、」
 開け放った教室のドアから、そおっと中をうかがう憲治。
「って、誰もいないじゃん。」
 おかしい。
 確かにあの「少女」がこの教室に入ったのを見た。だが、憲治の目前に広がるのは、閑散とした夏休みの空気を満たした無人の教室。整然と並ぶ机の列。廊下から流れ込むワックスの匂い。差し込む西陽の淡朱(セピア)。