「うれしい。」
 自ら放つその言葉が、憲治の心の小綺麗なパッケージを静かに解いていく。
 憧子を見る。
 輝いていた。憲治の飛行機が飛んだことを、まるで自分のことの様に喜ぶ様子に、憲治は胸の奥が、きゅう、と縮まっていく切なさを感じた。それを押し込めて、深呼吸してから、
「うれしい。」
もう一度言って空を見上げた。
 空は、夢が砕け散ったあの日と同じ色をしていた。

第2節に続く