「ふう。」
 憲治はため息に心を決めて、彼女の消えた教室へ歩き出す。
 ぱたり、ぱたり。
 ゆっくりと。しかし、やがてその足取りは鼓動の高鳴りに同調する。誰かに会いたい気持ちがそうさせていた。
 誰に会いたい?
「あの女性」に?
 確かに会いたい。だが叶うまい。8年の時間はその願いを打ち砕くに十分すぎる。不可能であることを望み続ける痛みを逃れながら、憲治は別の対象を惟う。
 誰に会いたい?
 あの「少女」に会いたい。
 会ってどうする?
 解からない。