そして更に思う。何処かおかしい。
 憧子は憲治自身の深層心理の具現化のはずだった。詳しくは聞かなかったが、髪が長くて、神秘的で、と言うくだりから察するに多分千佳子の見た少女もその姿だろう。とすると、どうしてそのままの「カタチ」で、千佳子の前に現れたのだろうか。
 憲治が思いあぐねていると、ふいに「音」が近づいてきた。
 かたかたかたかた。
 校舎側に陣取った野球部の反対側、グラウンドの北側から近づいてくる、憲治にとっては懐かしい音。それが何の音なのか、急には思い出せなかったが。