きっと、千佳子からの連絡はないだろう。その方が良い。連絡がないということは、幸せに過ごしていることなのだ。
 憧れていた「恋人同士」の関係を飛び越えて、突然、千佳子はもっと違う存在に「なってしまった」。憲治はそのことが嬉しくて、寂しかった。つぶやいてみた。
「さよなら。」
 まだ夏日の明るさの残る公園の中頃、夕涼みの時間には少し早い花火線香が見えた。
 夏は、折り返した。

第4章「鏡」終