二人は沈黙した。黙々と歩きながら、憲治は音楽室で体験したことを、千佳子に話すべきかどうか思案していた。聖菜に対する思いは、「罪」という認識で二人とも似通っていたのだ。
「あのさ、」
 憲治は自分だけが聖菜に赦されている(はず、である)ことを潔し、とは思えなかった。何とか、あの音楽室での聖菜の思いを伝えたかった。そして憲治は「憧子」の言葉を思いついた。
「『罪』って奴はさ、それを認めたときに初めて『罪』になるんじゃないか。たとえ他人がどう思っていても、『自分が罪人だ』って自覚しなければ償うことも、赦されることもないんだ。だから、自分の罪を認めることが出来ただけ、救い様があると思ってもいい、と…。俺って、自分勝手かな?」