「まじめに聞いてるんだけどな。」
 真顔になった憲治に、少しすまなそうに千佳子はため息交じりの微笑みで応えた。
「あの子ね、何も言わなかった。私に会うときも。ただ、無理に明るくしようとしているのだけは分かったわ。それだけに私もつらかった。憲治君が私の所に帰ってきて、本当は嬉しかったのに、ね。」
「そう、か…。」
 憲治の声が深く淀んだ。千佳子も声を淀ませた。
「でもね、あの子、私と憲治君がつきあってないってことも気にしてたみたいなの。…もしかしたら、一番の被害者は聖菜だったかもね…。」