何を言われたかも分からぬうちに、憲治の唇は千佳子の唇にふさがれていた。憲治はそのままの恰好で動きを止め、目も開けたままだった。
 泣いた後の千佳子の、真っ赤になった目蓋(まぶた)が見える。まだ濡れた頬。千佳子の唇は、暖かくて、柔らかい。
「っ…、」
 千佳子の唇が離れるまで、憲治は石のように身動き一つ取れなかった。体中の血が、皆頭に上ったようだ。
 憲治の肩に、ちょこんと頭を乗せた千佳子。
「今度キスするときは、ちゃんと目を閉じるのよ。嫌われちゃうからね。」