憲治の胸の中で、千佳子は子供のように、繰り返し詫びながら泣いた。
「…こんなこと、憲治君にしか頼めない。きっと、彼にだって…、だから…、」
「俺で良かったら、こんなことで良かったら、何時だって…、」
 「何時だって」と言った自分に、憲治は堪らない情けなさを感じて言葉を詰まらせた。
 もう、千佳子はこの胸には戻らないだろうことは分かっていた。でも、それでもかまわない。キレイごとでもかまわない。千佳子が望むのがそれならば、それもいいと思い始めた憲治は、思わず涙をこぼした。