横顔を縁取る影に憂いがにじむ。息を呑む憲治。瞬間のディジャヴュ。「憧子」の影。
「信じてるんだろ?そいつのこと。」
 わざと視線を反らした憲治。うなづく千佳子。
「だったら、千佳子の信じた通りにしなよ。俺も…、」
 憲治は言葉を探す。ここに来て、複雑な想いが「その言葉」を拒否しようとした。
 永きに渡って惟い、涙まで流した女性、である。他の男の所に行ってしまう手助けをしようとしている、自分。お人好しにも限度がある。だが、千佳子の目を見たとき、「その言葉」を言わせないのは、自分勝手な下らないプライドであることを知った。