スピリット・オヴ・サマー

　沈黙。
　店内に流れるＢＧＭのピアノの旋律が、二人の間で紅茶の香りに紛れる。千佳子がつぶやく。
「アンドレ・ギャニオン、だわ。ここのＢＧＭ。」
　どうでもいいことだった。だが、今の二人には、いや、憲治には「どうでもいいこと」であることが重要だった。
「今も、ピアノ、弾いてる？」
　千佳子がクラスの合唱コンクールでピアノを弾いていたことを思いだし、憲治は「どうでもいいこと」を聞いた。
「ううん、今はほとんど楽器らしい楽器はやってない。」
「ふーん…、」