スピリット・オヴ・サマー

 名前で呼んでしまった。しかも呼び捨てだ。苗字に「さん」付でしか呼んだことのない千佳子を、である。千佳子もしばし唖然としていた。が、すぐに優しく微笑んで、
「何?憲治君。」
と何事もなかったように問い返した。
「…あー、と…、」
 憲治は口ごもる。
 紅茶をすする。砂糖は入っていないが、ほのかなリンゴの香りが、甘く、胸を熱くする。 憲治は切り出せない。「どうして、俺を呼んだのか」。聞けない。千佳子も紅茶をすすりながら、憲治の問いを待つ。